AIという病

515hikaru
5 min readMar 2, 2018

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僕は基本的には「AI」あるいは「人工知能」という言葉を使うことを避けている。「機械学習」あるいは「ディープラーニング(深層学習)」という(少なくとも AI よりは)境界がはっきりした、物事を正確に表す言葉がある ので、わざわざAIという言葉を使うのは僕は好かない。

世の中にはマーケティングやらなんやらでキャッチーな言葉を使うことが仕事の人もいる。だから別に全てに目くじらを立てはしないし、僕もそのおかげで仕事にありついている側だから良い側面、悪い側面の両方を受け入れないといけない、ということは重々承知している。

しかし、現実の仕事においてこの「AI」という言葉が生んでいる「誤解」は、実は非常に根深いのではないか。そして、現場にいるいわば「プロ」でさえも巻き込んで騙してしまっているのではないか。僕はそう思っている。

いま勤めている会社に入ったときに散々聞いたのは「うちはAIの会社です」という文言だった。それは今でも一部の人は言い続けている。僕も別に否定はしない。

しかし、集合の包含関係として「AI開発の会社」であるならば「ソフトウェア開発会社」である。なぜならば通常AIはソフトウェアの中に組み込まれているものだからだ。AIだけを開発しても価値(バリュー)にはつながらない。

ところが、弊社には「ソフトウェア開発の会社」という意識が非常に低いように感じる。サービスを提供するという意識が希薄で、「AIについてさえわかっていればいい」という空気が蔓延している。

論文の情報をシェアしようとか、難しいことばっか言う割には「数式は嫌だ」とか言っていたりと何がしたいんだかよくわからない。自分の興味あることを表面的にさらっているだけで、力をつけようとか、自分の血肉にしようという意識が低いんじゃないか。

そういう動きは活発にあるのに対してコーディングに関する勉強会や書籍はほぼない。AIの細心技術を学ぶ前にソフトウェア開発の基本的な考え方を学んだほうがいいのではないか。

また「保守・運用」をしたくないなどという。開発者が愚痴っているのではなく、役員が言うのだ。「うちはAIの会社だから保守はなるべくしない方向で」と。

そんな状態の弊社は「ソフトウェア開発会社」なのに「ソフトウェア開発への意識は低い」という状態になっている、と僕は思っていた。しかし、最近考えてみると、そもそも社員たちは「ソフトウェア開発会社だと思っていない」のではないかという疑問が湧いてきた。つまり、「AIシステム」ならば「ソフトウェア」である、ということが認識できていないのではないか、と思う。

実際に弊社には「AI」と「非AI」という謎の区分が存在する。しかも、「AI」というものの対象はニューラルネットワークやランダムフォレストなどのアルゴリズム部分のみを指し、データ分析基盤でさえ入らない。つまり「非AI」のほうが圧倒的に仕事量が多いのに「非AIだから」と下に見られてしまう。採用も少ない。

先日もWeb開発の案件が終了したが、「AIシステムの開発は難しい」という意味不明な結論に落ち着いた。失敗の理由はどう考えてもソフトウェア開発のプロセスの問題だったし、そもそもAIシステムだから生じる部分の設計をする前にプロジェクトが頓挫したのに。

これが弊社のかかっている病気だ。つまり、「AI」という言葉に自分自身が踊らされ、「AI開発はソフトウェア開発である」という大前提さえも共有できていないのである。

「Webなんて誰にでもできる。しかしAIはまだ難しい」といっていた人が居たが、実際には弊社にはWeb開発なんてできる人はいなかった(だって当時のメンバーは誰も httphttps の違いを知らないんだから!)。正直、その人の言う「AI」よりもWebサービスのほうがずっと難しい(そのときの「AI」はライブラリのAPIを呼べば終わりの内容だった) 。

弊社だけの問題かと思っていたが、僕の知り合いのあるプログラマーの似たような病気にかかっていた。「単なるものづくりにはもう価値はない、技術の発展はものづくりの方法を抜本から変える」と言っていたが、単なるものづくりには価値はないのは昔からそうだし、残念ながらどんな技術が登場しても「ものづくり」が難しいことには何も変わらないと思う。

どうも話している限り、社長はわかっているっぽいのでそれがまだ救いだ。AIシステムの開発もそのうち「単なるソフトウェア開発」と呼ばれるようになるだろう。機械学習をソフトウェアに使うか使わないかという問題で大騒ぎしている現状のほうが異常なのだ。

病巣は根深い。きっと些細な啓蒙では根付かないだろう。組織の中で生きるというのは本当に面倒くさい。そう切に思う。

それでもこの組織に少しは可能性があると思ったから僕は残っている。だから、来週からもきっと静かに確実な仕事をする。ソフトウェア開発者として。

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